子どもがいない夫婦が考えたい 遺言だけでは足りない場面と死後事務委任

皆さまこんにちは。マレー行政書士事務所です。法務省の案内では、任意後見契約は、本人に十分な判断能力があるうちに公正証書で結ぶ制度とされています。また、法務省が公表している高齢者等終身サポート事業者ガイドラインでは、死後事務について、事務内容や費用の範囲、親族等への説明の重要性が示されています。自筆証書遺言書保管制度も含め、亡くなった後に備える制度は一つではありません。だからこそ、死後事務委任を考える際も、それぞれの役割を分けて整理することが大切です。

「子どもがいないので、夫婦のどちらかが先に亡くなった後が心配です」「遺言を作れば一通り安心でしょうか」といったご相談は、終活の場面でよく出てくる悩みの一つです。結論からいえば、財産を誰に引き継ぐかという問題と、亡くなった後の実務をどう回すかという問題は、似ているようで役割が異なります。特に、子どもがいない夫婦、兄弟姉妹や甥姪が関係しそうな方、親族に迷惑をかけたくないと考えている方ほど、遺言だけで足りるのかを早めに見直しておく意味があります。

役割の違い

遺言は、誰に何を引き継ぐかを決めるための大切な備えです。他方で、亡くなった直後には、葬儀や納骨の希望、関係先への連絡、病院や施設への支払、住まいの明渡し、家財の整理など、相続財産の分け方とは別の実務が生じることがあります。法務省のガイドラインでも、こうした死後の事務について、あらかじめ内容や範囲を整理しておく必要性が示されています。

そのため、「配偶者に全て残したい」という内容の遺言を準備していても、それだけで亡くなった後の細かな対応先まで決まるとは限りません。反対に、死後事務委任を考えていても、財産を誰に承継させるかまで一つで決められるわけではありません。大切なのは、遺言と死後事務委任を同じものとして扱わず、どこまでを遺言で決め、どこからを死後事務委任で整理するのかを切り分けて考えることです。

悩みが生じやすい場面

子どもがいない夫婦では、配偶者が唯一の支えになる一方で、その配偶者自身も高齢であったり、手続や対外的な対応に不安を抱えていたりすることがあります。元気なうちは想像しにくくても、いざという時には、葬儀や納骨の希望、亡くなった後の連絡先、住まいの整理、お墓の管理など、判断しなければならないことが短期間に重なる場合があります。

また、兄弟姉妹や甥姪が関係してくる可能性がある場合は、「どこまで頼めるのか」「誰に知らせるのか」があいまいなままだと、気持ちの面でも実務の面でも動きにくくなります。遠方にお墓がある方や、配偶者に大きな負担を残したくないと考えている方では、死後事務の整理が気になるということがあります。また、先祖代々のお墓を今後どうするか、自分たちの納骨先をどう考えるかといった悩みがある場合には、亡くなった後の希望もあわせて整理しておきたいと考えることもあります。

誤解されやすい点

よくある誤解の一つは、「遺言を書けば死後のことまで全部片付く」という受け止め方です。実際には、相続と死後事務は重なる場面があっても同じではありません。遺言が役立つ場面と、死後事務委任で整理しておいた方がよい場面とは、分けて考えた方が全体像が見えやすくなります。

もう一つは、「まだ元気だから後で考えればよい」という考え方です。任意後見契約が判断能力のあるうちに結ぶ制度であるのと同じく、死後事務委任についても、自分の希望や優先順位を言葉にできる時期に整理する方が、内容を具体化しやすくなります。誰に頼むのかだけでなく、どこまでの事務を想定するのか、費用をどう考えるのか、親族にどこまで伝えるのかといった点まで整理しておくことが大切です。

相談前の整理事項

死後事務委任について相談する前に、まず整理しておきたいのは、亡くなった後に特に気がかりな事柄が何かという点です。たとえば、葬儀や納骨の希望、お墓の管理、墓じまいの可能性、改葬許可申請が必要になりそうか、病院や施設への支払、住まいの片付け、関係先への連絡など、思いつくものを順に書き出すだけでも十分です。短くても構いませんので、気になることを可視化しておくと、相談時に話が整理しやすくなります。

あわせて、誰に動いてほしいのかも考えておきたいところです。配偶者だけで対応できそうなのか、第三者の関与も考えたいのかによって、準備の方向は変わります。また、財産の引継ぎに関する希望と、死後の事務に関する希望とを分けて考えることも重要です。遺言で定めたい内容と、死後事務委任で整理したい内容とを切り分けることで、必要な備えが見えやすくなります。

さらに、親族にどこまで共有しておくかも、実は見落としやすい論点です。全てを細かく伝える必要はありませんが、全く共有がないままでは、後で行き違いが生じることもあります。法務省のガイドラインでも、親族等への説明が執行上の支障を減らす場合があるとされています。相談前に、この範囲だけは伝えておきたいという線引きを考えておくと、準備が進めやすくなります。

早めの整理の意味

死後事務委任は、特別な事情がある方だけの制度ではありません。親族に迷惑をかけたくない方、子どもがいない夫婦、遠方のお墓や住まいの整理が心配な方にとっては、自分の考えを形にしておくための備えの一つです。実際には、遺言、任意後見、墓じまい、改葬許可申請などが関係してくる場合もあり、何から整理するかによって準備のしやすさは変わります。

一度に全てを決める必要はありませんが、役割の違いを曖昧にしたままにすると、かえって考え始めにくくなることがあります。事前に整理しておくことで、ご家族の負担を減らしやすくなります。
最後までお読みいただきありがとうございました。